経験から生まれるエンジニアリング

  
2026.10.14
イノベーション

経験から生まれるエンジニアリング

 

長期間の稼働実績から、エンジニアは何を学ぶことができるのでしょうか。
コマツでは、エンジニアや技術者、オペレーション部門のリーダーたちがこのような稼働実績を分析し、知見を共有しています。
これらの知見は再生・修理に関する判断に活かされるだけでなく、次世代の機械や材料、製造工程において、新たな気付きを得るきっかけにもなっています。

 


機械が教えてくれること

何千時間にも及ぶ稼働を経て現場から戻ってきた部品には、摩耗や負荷の痕跡が残されています。コマツでは、そうした知見をひとつのチームだけに留めることはしません。技術者、生産現場の作業者、エンジニア、現場のサービスチームの間で共有し、理解を深めながら、世界中のお客さまに提供する製品の信頼性や整備性、性能向上につなげています。

摩耗の状況からは、稼働により負荷がどこに集中していたのかを知ることができます。また、各種測定によって寸法がどのように変化したかを把握できます。さらに、熱や振動、異物混入、稼働状況など別の手がかりが残っている場合もあります。
しかし、そのデータだけでは、それはまだ知見とは言えません。大切なのは、それが何を意味しているのかを読み解き、背景にある状況を理解し、その学びを次へとつなげることです。こうした学びは、機械のライフサイクルのさまざまな場面で発生します。技術者は使用済み部品を検査し、製造チームは再生プロセスを検証します。現場チームは実際の稼働状況に関する情報を提供し、エンジニアは次の機械が製造される前に、過去の経験と分析・試験で得られた結果を組み合わせます。彼らに共通する問いは一つです。目の前で起きていることから何を学び、その学びを次にどう活かしていくのか、ということです。
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摩耗した部品は何を語るのか

使用済み部品には、これまでどのように使われてきたのかを物語る痕跡が残されています。測定データや摩耗パターン、その他の物理的な痕跡は、そこで何が起きたのかを理解する手がかりになります。そして、そこで得た気付きを関係者に共有することで、一人の経験にとどまらず、より多くの価値を生み出します。

ひとつの気付きは、どのように組織の知見になっていくのか

米国レキシントンでリマン事業のセールスマーケティングマネージャーを務めるアダム・トレボロは、エンジニアリングや品質、オペレーションなどさまざまな業務を経験しながら、20年以上にわたってリマン事業に携わってきました。以前は技術者それぞれの経験や判断に委ねられていた作業も、電子化された作業手順や接続型の計測ツールを活用することで標準化が進んできました。一方で、現場で培われた経験が持つ価値は変わりません。

技術者は、作業中に気付いたことをエンジニアリング部門へ共有することもできます。「技術者はボタンひとつで、現場で得た気付きをエンジニアリング部門へ共有できます」とトレボロは語ります。この仕組みが大切にしているのは、現場で働く人の気付きです。部品に最も近い人だからこそ、他のチームでは見落としがちな変化に気付くことがあります。共有する仕組みがあれば、測定結果や摩耗の状況、予期しないトラブルも、一人の技術者や一つの部品だけの問題に留まりません。このような情報は、エンジニアリング部門にとっての新たな課題となり、やがて組織全体の知見へとつながっていきます。

現場の気付きを次へつなぐ

技術者が測定、検査した内容を記録することで、他のチームも同じ情報をもとに傾向を比較し、さらに詳しく確認すべき点を見つけることができます。情報は集めるだけでは十分ではありません。そこから得た気付きを活かしてこそ価値が生まれます。
現場での経験を通じて、何がうまく機能しているのか、どの前提を見直すべきなのか、そこから新たな技術を取り入れるべき場面が見えてきます。

現場での経験が、新たな改善につながる

ケルビン・ウォーカーは、オーストラリアで技術者として鉱山機械の組立に携わり、コマツでのキャリアをスタートしました。現在はオーストラリア・パースのナショナルオペレーションマネージャーとして、生産効率やコスト管理に加え、部品の製造や再生の新たな可能性を模索しています。彼のチームでは、レーザークラッディング、ロボティクス、支援ツール、自律運搬などのプロセスや技術を評価しています。

ウォーカーによれば、大切なのは新しさを追い求めることではありません。「改善を重ねながら、より良い方法を探し続けることに面白さを感じています」その一例が、積層造形です。彼のチームでは、一部の製造支援ツールに3Dプリンターを活用する一方、少量生産部品への活用も視野に入れています。製造方法を変えるだけで、エンジニアリングの課題そのものがなくなるわけではありません。鋼材から成形することを前提に設計された部品を別の方法でつくる場合、材料、造形方向、補強、稼働時の負荷などを含め、改めて設計する必要があります。ここから得られる学びはシンプルです。まず課題を選定し、そのうえでどの方法が最も適しているのかを見極めることです。

なぜ稼働状況が重要なのか

摩耗の状況から分かることは、全体の一部にすぎません。機械がどこで、どのように使われたかを理解することで、エンジニアは目の前の痕跡を読み解き、材料の特性や稼働状況、その他の要因が見つけやすくなります。

現場を知ることで、課題が見える

小山で次世代アフターマーケット企画グループのグループ長を務める政野峻にとって、コマツ入社後に得た大きな学びのひとつは、計算や実験だけでは分からないことがあるということでした。このことを実感したのが、チリの鉱山での経験でした。「実際にどのように使われているのかを知ることが重要です」と政野峻は語ります。
使われ方を理解することで、エンジニアの視点も変わります。想定外の摩耗が発生した場合、その原因は材料や稼働状況にあるかもしれませんし、複数の要因が重なっている可能性もあります。機械がどこで、どのように使われていたのかを理解することは、さまざまな可能性を多角的に検証するうえで重要な手掛かりとなります。

ベルギーのビルボールドに拠点を置くプロダクトマネージャーのヴァレリー・ヴァン・ディーストとポール・ディキンソンも、材料と稼働状況の関係性を重視しています。ヴァン・ディーストは摩耗が激しい条件下で使用される部品について語り、ディキンソンは稼働現場の多様な気候や環境について述べました。

重要なのは、過酷な環境下で使われているという事実そのものではありません。部品に残された痕跡を使われていた環境と結び付けて検討することで、より多くの気付きが得られます。「この部品が摩耗した」という事実は、「なぜこの条件下で、このように摩耗したのか。そして、そこから何を学ぶべきか」という、より良い問いへと変わります。

現場からの情報は、どのように次へ活かされるのか

現場で得られる気付きは、多くの学びの源のひとつです。エンジニアリングチームは、これまでの経験に分析、試験、判断を組み合わせ、どの学びを次のプロジェクトに反映すべきかを決めることができます。

得られた気付きを次のプロジェクトへ

電気エンジニアとしての経歴を持ち、現在は米国ミルウォーキーでドリル製品のプロダクトディレクターを務めるグレッグ・パーカーは、機械の量産が開始される前に構造上の課題を検証する仕事に携わっています。この取り組みによって、大きな負荷がかかる箇所を早い段階で把握できるため、機械の設計を見直すチャンスが増えます。こうして得られた知見は、今回の対策にとどまらず、その後の設計にも活かされます。

パーカーは、「私たちは得られた学びを、次の開発へ活かしています」と語ります。ここで、経験や学びが次へと受け継がれていく様子が見えてきます。ある部品や機械から得た気付きを、その先の改善にも活かすことができます。試験、分析、エンジニアの経験に基づく判断と組み合わせることで、ひとつのプロジェクトで得た経験は、別のチームが次の開発に取り組む際に有益な情報となります。

これからの技術に向けて学びを積み重ねる

新しい技術を検証できるほどの長年にわたる稼働実績がない場合があります。だからこそ、電気コンポーネントを扱う場合でも、システムの動きを理解し、将来必要となる可能性のある整備やサポートについて考えていくことが重要です。そうした経験は、後に引き継いでいくチームにとって貴重な学びとなります。

十分な実績がない中で、どう学ぶのか

学びは、何十年もの実績が積み重なってから始まるものではありません。技術がまだ発展を続けている段階から、チームが知見を蓄積し始めなければならないこともあります。 政野は、電気コンポーネントに関する将来のアフターマーケットニーズを見据えた取り組みに携わっています。そこでは、まだ答えの出ていないさまざまな課題に向き合っています。システムの中で、どの部品が劣化するのか。どの部品が再利用できるのか。どの部品を交換すべきなのか。将来の設計では、メンテナンス作業をどのように効率化できるのか。

従来の機械部品のリマン事業で積み重ねてきた知見に比べると、電気コンポーネントに関する経験はまだ十分とは言えません。だからこそ、何十年もの経験が蓄積されるのを待つのではなく、機械や部品のライフサイクルを見据え、早い段階から準備を進めることに意味があります。技術は変化します。しかし、学び続ける姿勢は変わりません。何が起きるかを観察し、得られた知見を共有し、それを積み重ねることが、次に続くチームの学びにつながっていきます。

知識が共有され続けることで、進歩は生まれる

一つの気付きは一人の人から始まるかもしれません。しかし、異なる視点や経験、分析が加わることで、その価値はさらに大きくなります。

摩耗した部品を測定する技術者の気付きが、エンジニアリングチームの新たな検証のきっかけになることがあります。ある地域で得られた経験が、別の地域のチームにとって課題の共通点を見出す手掛かりになることもあります。現場の環境を深く理解することで、試験結果の解釈が変わることがあります。そしてある難しいプロジェクトで得られた学びは、次の製品開発へと受け継がれていきます。一人だけで、全体を見渡すことはできません。
技術者、現場チーム、生産現場の作業者、エンジニアがそれぞれの専門性を持ち寄り、他の人が得た学びを土台にしながら、そこに新たな知見を積み重ねていく必要があります。知識がチームや専門分野を越えて共有されることで、一人ひとりの気付きは組織全体の理解へと変わります。

機械はこれからも進化を続けます。材料や技術、お客さまのニーズも、それとともに変化していきます。それでも変わらないのは、経験や知見を次へと受け継いでいく姿勢です。共有された知識を土台に、そこから得た教訓を活かすことで、世代を重ねるごとに機械からより大きな価値を引き出せるよう、お客さまを支えていきます。


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