働き方の再定義 ― 遠隔操作が変える鉱山・建設機械の稼働現場

  
2026.7.10
イノベーション

働き方の再定義 ― 遠隔操作が変える鉱山・建設機械の稼働現場

 

遠隔操作により、オペレーターは安全で快適な環境から機械を操作できるようになりました。鉱山や建設の現場においてこの変化は、単に機械から離れた場所で操作できるという話ではありません。 運転席に搭乗しなくてもオペレーターが仕事ができるようになったことで、働き方そのものを大きく変えたことに意味があります。

 


出発点は現場の課題

これまで鉱山や建設の仕事は、「現場にいること」が前提でした。機械を動かすには運転席に座り、問題に対応するには現場に足を運ぶ必要がある。――それが当たり前でした。しかしその裏には、長時間の移動、過酷な環境での作業、その仕事を担える人が限られるといった課題がありました。「今は以前にも増して、人を中心に考える時代になっています」とアルバーは語ります。

遠隔操作は、ひとつのイノベーションとして生まれたわけではありません。作業の制御を維持しながら、オペレーターや現場で働く人々が安全に作業するための対応策として発展してきました。この考え方自体は新しいものではなく、コマツでも長年にわたり遠隔操作に取り組んできました。ただし近年は、それを支える技術と必要性が大きく変化しています。アングロ・アメリカン社がブラジルで運営するミナス・リオ鉱山でも、課題は切実でした。

「通常はブルドーザーでの作業中は安全上の理由から発破作業を行うことができません」と鉱山サービスコーディネーターのカラロ氏は言います。つまり「人を危険な場所に配置せずに、作業を続けることはできないか」ということでした。

最初の転換点:遠隔操作の実現

MINExpoでのデモンストレーションでは、数百キロ離れた場所から鉱山機械をリアルタイムで操作する様子が披露されました。印象的な瞬間ではありましたが、この取り組み自体は長年にわたって積み重ねられてきたものです。

遠隔操作により、現場に行かなくても操作が可能となりました。これまで現場という場所に縛られた仕事がどこからでもできるようになり、精度や操作性、運用管理の面でも向上が見られます。

実証された「リアルタイム運用」

MINExpo 2021では、実際の運用環境に近い形で遠隔操作が実演されました。展示会場のオペレーターが、約695km以上離れたアリゾナの試験場にある超大型ショベルPC7000を操作したのです。「来場者の目の前で、超大型油圧ショベルの遠隔操作を実演しました」と鉱山技術ソリューション部門のチーフアーキテクト、デビッド・ハウケネスは語ります。このデモンストレーションでは複雑なネットワークインフラ、緻密な連携、そして高い精度が必要でしたが、中断することなく稼働しました。

現場から離れても、仕事からは離れない

遠隔操作の最大の効果は「安全性」です。

粉塵、騒音、振動、不安定な足場――これらは機械の稼働する現場では日常的に存在するリスクでしたが、オペレーターはそこから解放されました。「遠隔操作のおかげで、オペレーターを危険な環境から遠ざけることができました」とアルバーは言います。「オペレーターは、画面の前に座るだけで作業ができます」とリーも補足します。

掘削や押土など、機械が行う作業は変わりません。 しかし、オペレーターが置かれる環境は大きく変わりました。

安全性の確保

遠隔操作は、オペレーターを過酷な現場環境から遠ざけますが、仕事の責任が無くなるわけではありません。「健康被害を大きく減らすことができます」と、ハビエル・マツダは語ります。彼は通信業界での経験を経てコマツに入社し、現在は地域を跨いだソリューション開発の支援に携わっています。

現在、オペレーターは機械の運転席ではなく、制御室からカメラ映像やリアルタイムデータを通じて作業を行っています。機械の状況を把握し、判断し、作業の効率化を図る――その役割はこれまでと変わりません。ただし、それをより集中しやすい環境で行えるようになったのです。

安全性の先にある価値

オペレーターが機械の稼働場所に縛られなくなったことで、新たな可能性が生まれました。

これまで遠く離れた現場では、現場への移動そのものが仕事の一部でした。機械の稼働現場との往復で、何時間も費やしていたのです。
「以前は、移動時間帯は機械を稼働させることはできませんでした。今では、その時間をすべて稼働に充てられます」とアルバーは語ります。

遠隔操作は、単にリスクを減らしただけではありません。無駄な休車時間を減らし、時間の使い方と仕事の進め方を大きく変えました。 「最初に実感したのは、生産性が向上したことでした」とカラロ氏は振り返ります。しかし、本当に大きな変化はそこではありません。「現場に行かなくていいのは、本当に大きいですね」と伊吹は言います。何気ないひと言ですが、その背景にはより深い変化があります。仕事はもはや、“どこで作業するか”で決まるものではなくなったのです。

新しい働き方

仕事そのものは変わっていません。 ただし、働く場所は大きく変わりました。

現在、オペレーターは自宅近くの、労働環境の良い場所から遠隔操作を行っています。視界は良くなり、身体的な負担も軽減されています。「この技術によって、オペレーターの生活の質は向上します」とハビエルは語ります。さらに、現場への移動時間やシフト間の待ち時間も減り、自宅により近い場所で働けるようになりました。

“どこからでも関われる”ことが、すべてを変える

仕事が“どこで行うか”に縛られなくなると、 仕事を担える人の範囲も大きく広がります。

これまで現場にいなければできなかった仕事も、今では状況を把握し、判断し、複数のシステムから得られる情報を読み解く力が重要になっています。つまり、「機械を操作する」とは何か、その意味自体が変わりつつあり、今後もさらに進化していくでしょう。

ミナス・リオ鉱山のような現場では、この変化によって、より多くの人が安全かつ効率的に作業に関われるようになっています。技術の進化とともに、働く人の幅も広がり、これまで建設機械に関わるきっかけがなかった人たちにも、新たな扉が開かれつつあります。

多くの人に可能性を

仕事のあり方が変われば、それを担う人も変わります。

これまで機械の操作には、体力が求められるうえ、現場にいることが欠かせませんでした。しかし遠隔操作によって、そうした条件の多くが取り払われつつあります。「コンピューターを使えれば、誰でも機械を扱えるようになります」とリーは言います。この変化により、人材の幅が大きく広がりました。より多くの人が専門的な役割を担えるようになり、建設機械に携わる仕事に就くという新たな選択肢が生まれています。

同時に、仕事の中身そのものも変わり始めています。その変化は、すでに現場でもはっきりと見られるようになっています。「遠隔操作の導入によって、ブルドーザーのオペレーターとして女性も活躍できるようになりました。 快適な室内で、広い視界を確保しながら、リスクなく安全に作業ができます」 アングロ・アメリカン社でインフラオペレーターを務めるジュリアナ・クルーズはこう話します。 

建設機械を操作するオペレーターの仕事は、これまでのような身体的な操作から、 状況を確認、調整し、判断する役割へと変わりつつあります。「人がもっと楽に、前向きに楽しく働ける環境をつくれると考えています」と伊吹は語ります。

現場の見え方が変わる

「私は中型油圧ショベルPC200i-12をはじめとする、遠隔操作・自動化・データを統合した製品のシステム開発に関わっています。こうしたスマートコンストラクションの遠隔操作・自動化ソリューションは、建設現場の課題を解決し、新たな価値を生み出す核になると考えています」と伊吹は語ります。

これにより、実際に現場へ足を運ばなくても、 状況を把握し、理解し、改善していくことが可能になります。

変化を支える仕組み

こうした変化は、単に機械を開発するだけで実現したものではありません。エンジニアや開発者、オペレーターなど、役割の異なる担当者たちが国を超えて協力し合い、これまでにない仕組みをつくり上げてきました。ホークネスはこう説明します。 「コマツのソフトウェアは、ネットワークとつながることが前提になっています」

遠隔操作を支えるシステムは非常に複雑です。建設機械やデータ、カメラ、通信がリアルタイムで連携してはじめて機能します。その開発は決して容易ではありませんでした。 関係者が協力し、試行錯誤を重ねながら、技術の進化に合わせて学び続けてきたことが、成果につながっています。

「コマツは人を大切にする会社です。皆で試行錯誤しながら、一緒につくり上げてきました」とホークネスは振り返ります。技術が進化するなかで、それを支える人材もまた成長してきました。「私はプリセールスエンジニアとして入社し、今はチーフアーキテクトを務めています」と彼は語ります。

技術の進化とともに、それを支える人々も成長し、地域を越えて新たなスキルや役割、働き方が生まれています。

人がつくるグローバルな仕組み

スマートコンストラクションの遠隔操作は、単なる一つの製品ではありません。世界各地のチームが関わり、ネットワークの構築やインターフェース設計、リアルタイムでの運用支援などを担う「システム」として成り立っています。

「コマツは社員一人ひとりを大切な存在として扱っています」とホークネスは言います。そうした信頼関係があるからこそ、役割や地域、専門分野の枠を超えて力を発揮できるのです。

コマツが見据える未来

遠隔操作は最終的なゴールではなく、より大きな変革へと向かう流れの一部に過ぎません。

リーはこう語ります。 「これからの時代は、自動化が当たり前になっていきます。あらゆる分野で、その流れが進んでいくでしょう。システムの高度化に伴いオペレーターの役割も変わり、これまでのように1台の機械を操作するだけでなく、複数のシステムやワークフロー、そして最終的な成果までを見据えて管理する役割へと広がっています。」

一方で、どれだけ技術が進化しても、その方向性は変わりません。「目指しているのは単なる効率化ではありません。 働き方そのものを変えることです」と伊吹は言います。技術は私たちの働き方の本質を変えています」

働き方の再定義

遠隔操作はもともと、安全性を高める手段として始まりました。しかしその後、人の働き方をより良くする仕組みへと進化しました。その可能性は、今も広がり続けています。距離を越えて知見をつなぎ、基幹産業への新たな道を切り拓いています。この変化は、単なる技術革新にとどまらず、仕事そのものの捉え方を変えつつあります。 「どこで働くか」に縛られるのではなく、 「どのように価値を生み出すか」で評価される働き方へ。「物理的距離」から「つながり」で仕事が定義される時代へ。

その背景にあるのは、単に機械を動かすことではなく、人がより良い形で仕事に関われるようにするという発想です。それこそが、この取り組みの出発点であり、目指している未来です。



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