2026.2.27
イノベーション

デジタルツインの活用方法と事例|コマツの建設・鉱山・月面での例


デジタルツインを活用することで、コマツの技術者は、機械が実際の現場で稼働する前の段階で不具合を回避し、より的確な判断を行っています。 

大型建設機械の開発には、やり直しは簡単に許されません。不具合が発生した場合、時間や材料が無駄になるだけでなく、時には人命にかかわることもあります。そのため、新機種が現場稼働する前に技術者たちは最も過酷な条件下でその動作を検証しなければなりません。
では、設計段階でテストするには、どうすればよいのでしょうか。稲田孝治のような技術者にとって、その答えは「デジタルツイン」を活用することでした。デジタルツインとは、現実の機械や作業現場を仮想空間上に再現し、その中でテストや検証を行うことで、不具合の発見や改善につなげる技術です。

 


「実機の前に、まずはデジタルツインで“答え合わせ”をする。それが最小リスクで立ち上げる私たちのやり方です」と、コマツ生産技術開発センタの稲田は語ります。

2010年、稲田は材料工学の修士課程を修了し、コマツに入社しました。当初は材料研究の道で自身のスキルを活かすことを考えていましたが、工場を一度見学したことで考え方が大きく変わります。

「溶接という専門的な工程が、これほど高いレベルで自動化されていることに衝撃を受けました」と稲田は振り返ります。「実際の生産現場に触れ、ロボットが生産にもたらす影響の大きさを実感し、活用に対する見方が大きく変わりました。」

生産技術開発センタにおいて、稲田はデジタルツインを活用し、実機を動かす前にロボットの動きや溶接の流れ、生産現場での動作状況を仮想空間上で確認・評価しています。これにより、実際の作業に先立って一連の動作を安全かつ効率的に検証できます。仮想空間で動作を確認した後は、その結果をロボットに反映し、実際の溶接作業へ移ります。また、実機での動作データを IoT で収集し、再びデジタルツイン上で検証することで、さらなる改善へとつなげています。

こうした取り組みは、当初は一つの拠点から始まった技術チャレンジでしたが、現在では世界中のコマツの拠点へと広がっています。そして稲田の経験もまた、ロボット、シミュレーション、デジタルツールが日常的に活用されるようになった、生産現場の変化を象徴する一例です。

オーストラリア、ニューサウスウェールズ州サマーズビーにある生産拠点で稼働するコマツのロボット溶接機。

コマツにおいて、イノベーションは単に優れた機械を生み出すだけでなく、人々に新たなキャリアの道を切り拓きます。ブラジル・サンパウロでは、フランシスコ・デネス・ダ・シルバもその一人です。彼は1997年に生産アシスタントとしてコマツ・ド・ブラジルに入社し、28年の経験で得た知見を活かし、ロボット溶接のスペシャリストへと成長しました。現在は生産の技術者として、スマート生産の未来を切り拓く役割を担っています。

「ロボットのプログラミングや操作方法を学び、幅広い知識を身につけました」と彼は語ります。現在その経験は、仕事の準備から制度や生産性の最適化に至るまで、コマツの自動溶接工程のあらゆる面を支えています。

溶接ロボットは、単なる機械のアームを持つ装置以上の存在です。彼はこう説明しています。安定した品質、スピード、そして安全性を備えた部品を生産するために不可欠な存在なのです。「溶接ロボットは、より高い効率、品質、生産性を実現してくれます」。

コマツ全体でもこのような効率化は人の仕事を奪うものではなく、より熟練した技術での作業を可能にしてくれます。ダ・シルバにとって、それは学び続ける姿勢の上に築かれてきたキャリアであり、オートメーションと人が共に成長していくことの証でもあります。

そして生産現場を改善してきたこのアプローチは、その枠を超えて広がりを見せています。デジタルツイン技術は、コマツのお客さまが作業現場をモデル化したり、鉱山の状況を監視したり、極限環境で機械がどのように性能を発揮するのかを検討したりするためにも活用されています。いずれの場合も目的は同じです。作業を始める前に不確実性を減らし、安全性を高め、人々により明確な見通しを与えることです。

作業を始める前に、現場を「見える化」する

ジェイソン・アネツバーガーは、業務を通じて同じ問いに向き合ってきました。 それは、「小さな問題が大きな損失に発展する前に、現場の作業員がより良い判断を下せるよう、どのように支援できるか」という問いです。

彼はマーケティングエンジニアとしてコマツに入社し、その後、GPSセンサーを搭載したブルドーザーや油圧ショベルの自動化分野の業務に携わりました。やがて、その取り組みは一台一台の機械だけでなく、現場全体を見渡す仕事へと発展していきました。

「入社して間もない頃からずっと、デジタル技術や機械の自動化、クラウドソリューションをどう組み合わせれば、お客さまの仕事をより良い形で支えられるのかを考え続けてきました」と、コマツ北米でカスタマーソリューションを担当するジェイソン・アネツバーガーは話します。

こうしたソリューションには、デジタルツインで現場を再現し、作業の見通しや機械の動きを事前に把握するためのものも含まれています。

「機械やトラック一台一台について、運土量や掘削量といった作業データを確認しています。それにより、見える化し分析することでレポート作成が可能になるのです。 そのデータを見える化、分析、レポート化するだけでなく、『どれだけの作業量をこなせるか』をシミュレーションし、工期にどう影響するかまで検討しています。」

この取り組みは、実績を可視化して報告するだけにとどまりません。得られた知見を活用して将来を予測し、顧客が保有する機械の組み合わせを最適化することも目的としているとアネツバーガーは語ります。「もし次の工程で、さらに1万立方ヤード、あるいは100万立方ヤードもの土を動かす必要があると分かった場合、その作業を所定の期間内に完了するには、何台の機械が必要なのか、あるいはどのサイズの機械を使うべきなのか、を検討することができます。」

デジタルから得られた知見をもとに、コマツは、作業前の段階から、顧客とともに最適なアプローチを検討しています。

アメリカのある作業現場では、プロジェクトマネージャーが、コマツのデジタルツインを使ってリアルタイムに作業データを共有しています。現場の状況をどこからでも確認でき、「気づき」に活用しています。

コマツとの関係会社であるEARTHBRAINが開発に関わるスマートコンストラクション®は、収集したデータ・センサーからの情報・自動化を組み合わせることで、現場をより安全かつ効率的に運営することを可能にします。家庭でスマートデバイスが暮らしを支えるように、これらのツールは建設現場ではこれらのツールで、周辺環境、機械の状況、作業の進捗状況を正確に把握することができます。

デジタルトランスフォーメーションに特化したコマツの関係会社であるEARTHBRAINで、グローバル開発マネージャーを務めるタルハ・カリドは、スマートコンストラクション®を通じてデジタルツインの実力を目の当たりにしています。これらのツールは、ドローンでスキャンされた地形データや、リアルタイムに表示される機械の動きなど、現場に関するさまざまなデータを一つの画面に集約して表示することができます。
これにより、チームは遠隔から現場の状況を確認でき、変化に対処しながら、デジタル上の計画と現在の状況を比較することが可能となり、より正確な判断ができます。

カリドにとって重要なのは、単にデータを集めることではありません。現場で何が起きているのか作業員がはっきりと確認できるようにし、より安全に、より速く、そして自信をもって仕事を進めることができるようにすることです。

見えない危険から安全を守るために

デジタルツインは、地球上でも特に過酷な環境で働く人々を守るためにも活用されています。コマツのMine Site Technologies (MST)を活用すれば、視界が悪く、現場状況が急変しやすい地下で何が起きているのか正確に把握できます。リアルタイムのデータによって、警告が出る前に、いち早く気づくことができます。

「地下にはGPSが届かず、暗く高湿度という、あらゆる面で厳しい環境です」と、MSTのグローバル・プロダクト・マネージャー、ラモド・ランガサミーは語ります。「こうした環境下で使用される製品は、数年ではなく、何十年にもわたって使える耐久性が求められます。その挑戦こそが、私を強く惹きつけました。」

多くの地下鉱山は、インフラが整っていない場所にあります。そのため、現場で安定した通信を確保することが非常に重要です。デジタルツインは、設備やセンサー、人から得られるさまざまなデータを一元的に可視化し、鉱山全体を把握できるようにします。これにより、顧客は原石の状況や稼働状況だけでなく、作業員の位置や動き、さらには作業環境まで把握できるようになります。

例えば、地下鉱山で自律走行車両が予定通りに戻らない場合、デジタルツインで停止してしまった原因を確認することができます。 ランガサミーは、デジタルツインを通じて、他の機械や作業員が作業待ちで停車しているのか、機械トラブルが起きているのか、あるいは誰かが停車させているのかなどを確認でき、対応方法が判断できるようになると語ります。

「鉱山向けのデジタルツインを実現するためには、複数のモジュールが連携して機能します。必要なのは、別々のソフトウェアを寄せ集めることではなく、こうしたあらゆる情報を取り込み、そこに文脈を与えていくことができる“ひとつのエコシステム”なのだと、彼は語っています。
コマツでは、デジタルツインをさまざまな形で活用しています。その一例が、カナダ・オンタリオ州サドベリーで、地下の硬岩鉱山向け機械を紹介するために使用されているこのシミュレーターです。

機械のその先へ

しかし、デジタルツインが秘める最大の可能性は、私たちを「次にどこへ導いてくれるのか」という点にあるのかもしれません。
コマツは現在、月面で使用する建設機械――いわゆる月面建機の開発に取り組んでいます。これは、地球を離れる前に、設計・試験・検証のすべてを完了させておく必要のある機械です。
では、実際に月に持ち込む前に、どうすれば「月で確実に使える」機械を生み出せるのでしょうか。
その答えは、仮想空間の中にあります。まず仮想の建設機械――デジタル上の月面建機をつくり、それを仮想の月で動かしてみるのです。


コマツは月にショベルを送る計画を進めていますが、実現するためには、その機械が確実に稼働できることを証明するデジタルツインが必要になります。

コマツがデジタルツイン環境の構築に使用している技術では、地形や環境条件など、さまざまなデータが活用されています。
月面建機は、宇宙機関や民間企業による月面基地の建設をはじめとした、さまざまな宇宙建設プロジェクトを支える存在となります。
しかし月は、極端な温度差があり、大気も存在しない過酷な環境です。
3Dで再構築された月面環境であれば、こうしたあらゆる条件を織り込んだうえで、精度の高い検証やシミュレーションを行うことが可能になります。

そこで重要な役割を果たすのが、仮想の建設機械です。
デジタルツインでは、この建設機械そのものをプラットフォームとして活用し、実際の環境で、さまざまな動作や挙動を検証することができます。
デジタル環境での徹底したテストを通じて、解決策への確信を高めることができ、その結果を踏まえて実機の改良や調整が行えるようになります。
また、デジタルツインは、月面機器の遠隔操作・遠隔管理の最適化にも役立ちます。月までの距離は約38万3,000キロメートル(約23万8,000マイル)に及び、通信には数秒の遅延が発生します。その遅延は往復でおよそ2.5秒ですが、極限環境では一秒一秒が非常に重要です。

月面は、コマツがこれまで機械を開発してきた環境の中でも、特に過酷な場所の一つです。それでも、デジタルツイン技術を活用することで、「月で建機を動かす」という構想は、徐々に現実になりつつあります。さまざまな用途や環境において、いま行われている仮想空間での取り組みが、より安全で、より賢く、より強靭な未来の現場づくりの基盤を築いています。開発の初期段階からデジタルの知見を活用することで、コマツはお客様だけでなく、私たちの製品を活用いただいている地域社会や産業全体にとって、より良い成果をもたらそうとしています。仮想空間の建機はデジタル上のものですが、そこで生まれる進歩は確かな現実です。

 



宇宙への挑戦

人類の夢を実現するため、コマツは月面建機の開発を進めています。

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