機械を超えて、広がる未来。:一人ひとりの持続可能な未来を築く

コマツカミンズ、軽犯罪者の社会復帰を進める支援活動を主導

イエルコ・アンドレス・アルセ・アルビアルは、サンティアゴ近郊で生まれ育ちました。高い失業率、薬物乱用、そして不十分な教育制度、そんな環境が彼の価値観を作り上げていきました。育った環境では、違法行為が普通のことのように思えました。「この場所で生きている限り、こうすることが当たり前だと思っていた」と彼は言います。 こうしてアルセは、16歳で初めて少年院に収監されました。

このようなケースはチリではますます常態化しており、最近では麻薬密輸の拡大が地域社会の新たな問題になっています。少年院に収監された若年軽犯罪者は、社会復帰する際に必要なサポート体制が弱いことにより、再犯を繰り返す傾向があります。最新のデータでは、若年軽犯罪者のうち、1年後に再び収監される割合は約35%、2年後には46.4%に上ります。

アルセも再犯者として、このデータに算入されていたかもしれませんが、実際には回避することができました。彼の人生を変えるきっかけとなったのは、Reinventarse Foundation (リインベンタルス財団)というプログラムでした。


人生を変える投資

Reinventarse Foundation (リインベンタルス財団:以下、財団と記載)は、コマツカミンズチリ(以下、コマツカミンズ) が運営する非営利組織であり、過去に軽犯罪を犯した人々が就労の機会と新たな人生を見つけられるよう支援しています。この財団は、国内各地でさまざまな研修プログラムや支援サービスを展開しています。2011年の設立から2024年まで、3,500人以上の人々の再出発を支援しており、参加者の数は年々増加しています。

「コマツカミンズでは、人こそが最大の資本であり、彼らが持つ多様な技能と知識の集合体こそが力であると確信している」と、同社のCEOであり財団理事会の会長でもあるダルコ・ルイットは言います。「リインベンタルス財団はこの理念を共有するものだ」。

アルセがこの財団の存在を知ったのは、24カ月の収容期間でのことでした。財団は、「幼少期や思春期には考えもつかなかった」将来を思い描く新しい道を提供しました。

アルセは、財団が少年院で開催している機械工学の認定基礎講座を受講することにしました。そこで彼は、電気部品や油圧、安全規則の基礎を学ぶとともに、ライフスキルのコーチングや自分の生き方に関するカウンセリングも受けました。不在がちな両親の下、違法行為が当たり前の環境で育った若者にとって、財団の指導は人生を変える契機となりました。「このプログラムのおかげで、自分のスキルと強みを認識でき、弱みに向き合うことで、再犯を防げた」。

財団のスタッフは、持続可能な更生のためには、技術的なスキル取得と同様にソフトスキルや自己理解も重要だといいます。若者であれ大人であれ、多くの参加者は社会からの孤立や疎外、身体的・精神的虐待、教育格差、メンタルヘルスの課題などを抱えています。幼い頃から軽犯罪に手を染めてしまっているというケースもあります。

「彼らと絆を築き、彼らの人生を理解すること、及び、共感や支援を行いながら自身の職務権限を保つことは時に難しいこともある」と、少年院で参加者と向き合う技術コーディネーター兼就労アドバイザーのカティア・ドミンゲスは語ります。「大切なのは、過ちを犯したとしても、これから更生できるのだと自らが気づくよう手助けすることだ」。

財団は調査研究や啓発活動を通じて、社会の意識を変える取り組みも進めていますが、彼らには社会的な偏見も立ちはだかります。「この財団チームの一員であるということは、社会の偏見や課題に挑み続けることを意味する」と、同じく技術コーディネーター兼就労アドバイザーのロシオ・カストロ氏は語ります。「それは可能性を信じ、変化を信じ、若者たちを信じるということだ」。

アルセは次のように述べています。「財団が人を変えるもう一つの方法は、シンプルに一人ひとりを人間として尊重することだ」。
サンティアゴのコマツカミンズ本社で同僚と談笑するアルセ。「財団は、人を変える力がある。私がその証だ」。

雇用を生み、地域を支える

財団の使命は、人々が収監と再犯の悪循環から抜け出し、必要とされる仕事や家庭、そして叶えるべき夢へと導くことであり、地域社会全体がその使命に関わっています。

世界中の多くの国と同様、チリも労働力不足の問題を抱えています。チリ鉱業技能評議会によると、2032年までに鉱業分野で3万4,000人の新規労働者が必要とされ、そのうち75%は機械整備、機械オペレーター、設備オペレーター、保守技術者といった専門職です。

財団はこうしたニーズに応えるため、訓練プログラムを立案し、幅広い内容で実施しています。現在、少年院および女性施設内で7件、労働釈放許可を得た少年向けに1件、全国展開の職業訓練・就職支援プログラムが2件、計10件のプログラムを運営中です。青少年向けプログラムは、調理、機械整備、美容、自動車整備、使用済み部品の再生 (リマニュファクチャリング:コマツリマン) に重点を置いています。女性向けプログラムでは、コマツリマンやカスタマーサービス、コールセンターへの就労のチャンスがあります。

多様なニーズに多様なパートナーが協力

財団の使命を実現するには、国内各地での多様な訓練・支援プログラムが必要です。財団は、少年院を運営するチリ国家青少年庁(SENAME)や、成人施設を運営するチリ刑務官庁と緊密に連携しています。

成人女性施設のピア・ルイス・デ・ガンボア・ゴンザレス中佐は、財団の活動は「施設の幹部からも高く評価されている」と述べています。女性施設でも少年院でも、財団職員はそれぞれの施設のセキュリティ規則や独自の環境に柔軟に対応する必要があります。「財団とは非常に良好な関係にあり、コミュニケーションと連携も円滑だ」。

施設内での活動は、財団の取り組みの一部にすぎません。

財団は社会復帰を促進するための調査研究や政策提言にも積極的に取り組んでいます。「この財団はチリにおいて、社会的・就労的再統合の分野のリーダー的な存在であり、公共政策の観点からも素晴らしい貢献をしている」とルイット氏は述べています。

受講者が収容期間を終えて地域社会に戻る際、民間と公的機関の連携による支援体制が用意されています。こうした連携により、教育、育児スキル、就労準備スキル、専門的なメンタリング、キャリアカウンセリングなど、多岐にわたる支援を提供しています。

多様なニーズに対応するには、各団体との協力が不可欠です。「そのためには、より強くこの分野にコミットする担い手が必要だ」とルイット氏は言います。「戦略的な連携体制の構築は、今後も極めて重要である」。

この連携体制において、コマツカミンズは、人的支援から正社員雇用に至るまで、あらゆる段階で重要な役割を果たしています。財団の理事5名は全員がコマツカミンズの幹部社員です。社員は技術指導やメンタリングにボランティアとして参加し、また施設や機材の提供など幅広い支援サービスも提供しています。

コマツカミンズの最も象徴的な取り組みの一つが、毎年、10名の財団参加者からインターンシップを受け入れていることです。条件が合えば正社員としての雇用もできます。これまでに計42名が採用されました。

2023年、アルセもその1人となりました。
イエルコ・アンドレス・アルセ・アルビアルは、財団の支援により、サンティアゴのコマツカミンズに入社しました。「私への信頼、支援や助言、そして思いやり……本当に感謝している」。
コマツカミンズのサンティアゴ本社で働くアルセ。
彼は財団の支援でインターンの機会を得て、現在は正社員として働いています。

「素晴らしい」体験

アルセは、予定より2か月早く退所した後も、財団やその関係者と連絡を取り続けました。彼は会計監査士としての研修を修了し、サンティアゴにあるコマツカミンズの財務部門でインターンとして働き始めました。

インターン期間終了後、アルセは正社員の試験に合格し、スタッフの一員となりました。「それからの毎日は、まさに特別な経験だ」。彼の学習意欲は、留まることを知らず、2024年には、ある分野で予想外の結果が現れました。社内のF1ファンタジーリーグ*で2位に入賞したのです。
「最初はF1の知識も全くなく参加したが、F1を学び、未知の新しい世界に飛び込むことが目的だった」。

現在24歳のアルセは、財団が常に自分を信じ、継続的に支えてくれたことで、社会への扉が開かれたと考えています。「この財団は、人を変える力がある。私がその証だ」と彼は語ります。「このような活動をしている団体を、私は他に知らない」。

アルセは5年後の自分について、幼少期を過ごした環境とはまったく違う場所にいる自分を思い描き、チリ国外を旅し、外国語を学び、専門分野で活躍したいと考えています。

「『夢を見るのは自由だ』と言う。粘り強さ、向上心、モチベーション、そして学習意欲があれば、チームの責任者やリーダーになれると思っている」。

そして彼はこう付け加えました。「コマツカミンズで働き続けたい」。

*F1ファンタジーは、ファンが自分だけのF1チームを作り、実際のレース成績に応じてスコアを獲得するオンラインゲーム。コマツF1ファンタジーリーグでは、グランプリの週末ごとに、世界中のコマツ社員が運営するチームと戦う。



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