事業の選択と集中
1990年代、建設機械市場は日米欧の成熟化に伴う需要停滞により成長が見込めないという見方が主流で、コマツも他社同様に多角化や新事業による成長を目指していました。しかし、2000年代に入るとその方針を転換し、建設機械・車両事業およびシナジーを見込める産業機械他事業を中核に据える戦略へと大きく舵を切りました。これにより、収益性の強化にとどまらず、強みのある領域に集中的に資源を配分し、経営効率の向上にもつながりました。
海外売上高の拡大
事業領域を強みのある分野に集中させる一方で、地域面では特定市場に過度に依存しない事業基盤の構築を進めてきました。
現在、コマツの海外売上比率はおよそ9割にのぼります。1960年代まではほとんどが日本国内向けでしたが、1970年代から本格的に海外市場の開拓に乗り出し、M&Aも活用しながら商品ラインアップを拡充し、海外販売を拡大してきました。当初は日本からの輸出が主だったものの、海外市場の需要増加および円高の進行などの時代背景もあり、1980年代から現地生産を加速させ、2000年代以降、海外売上高が国内売上高を安定的に上回るようになりました(図7)。
今日の高い海外売上比率は、成長の結果であると同時に、業績の安定性を支える基盤にもなっています。事業を地域的に分散させていることで、特定地域の需要減速や為替変動が連結業績に与える影響を抑えやすくなり、環境変化に対応しやすい事業構造につながっています。
鉱山機械事業の伸長によるアフターマーケット事業の拡大
新車需要の変動が大きい建設・鉱山機械市場において、需要の変動に左右されにくい収益構造を構築することは、重要な経営課題でした。コマツでは、この課題に対し、鉱山機械事業の売上高構成比を高めることで対応してきました。鉱山機械は、一般建機に比べて長時間の連続稼働が前提となるため、機械本体の販売に加え、部品・サービスなどのアフターマーケット収益を継続的に見込みやすい事業です。鉱山機械事業が伸長した結果、コマツ全体に占めるアフターマーケット事業(部品・サービス)の拡大にもつながってきました。
実際に、2010年度から2025年度にかけて、本体・部品・サービスを合わせた鉱山機械事業の売上高構成比が上昇するとともに、建設機械・車両事業全体に占める部品・サービスの売上高構成比も上昇しています(図8)。こうした事業ポートフォリオの変化により、新車需要の変動に左右されにくい収益構造への転換が進んだと考えています。
リテールファイナンス事業の拡大
2016年に建設機械・車両事業からリテールファイナンス事業を切り分け、現在の3つのセグメント体制に組み替えました。当社製品のお客さま向け金融商品を取り扱うリテールファイナンス事業は、1988年にドレッサー社(アメリカ)との合弁会社設立時に同社傘下の金融子会社を取り込んだことに始まります。
その後、担保資産となるコマツ製品にKomtrax(機械稼働管理システム)が標準装備されるようになりました。これを機に、2004年以降はアメリカ以外の地域にも事業を順次拡大してきました。本事業は、Komtraxの技術を活用して位置情報や稼働状況を把握し、債権保全の実効性を高めながら、建設・鉱山機械の重要な販売促進ツールとして育ててきました。直近では、2025年度にイギリスでファイナンス提供を開始し、2026年度には南アフリカでも金融子会社が営業を開始するなど、カバレッジを更に拡大しています(図9)。
SVM管理の導入
1970年代以降の海外企業の買収を通じて、従来の日本の全部原価計算とは異なる海外の管理会計の考え方も取り入れてきました。1997年のアジア通貨危機を契機に売上げが急減し、販売費および一般管理費比率の高さが競合他社に対する弱点として顕在化したことから、固定費構造の見直しが急務となりました。こうしたなか、コマツの事業戦略が「選択と集中」にシフトするのに合わせ、生産水準によって製品ごとの原価が変動する伝統的な全部原価計算を見直し、変動費を中心に捉える海外の直接原価計算の考え方を管理会計に導入しました。コマツではこれをSVM(Standard Variable Margin)管理と呼び、グローバルで変動費と固定費の定義を統一したうえで、2002年から本格導入しています。
SVM管理の導入により、世界各地の採算比較が可能となり、変動費と固定費を共通の物差しで把握できるようになりました。また、「必要な利益率を確保するために、固定費をどの水準に抑えるべきか」が明確になり、売上げの増減に応じた早期のアクションが可能となりました。こうした管理手法は、リーマンショック時に工場閉鎖を含む構造改革を進め、大幅な固定費削減を実行した際にも重要な役割を果たしました。
グローバルクロスソースの推進
2011年に進行した超円高のような為替変動リスクや、激しい需要変動への対応力を高めるため、当社はグローバルでのクロスソース体制の強化を進めてきました(図10)。世界中にある複数の生産拠点で同一仕様・同一品質の製品を供給できる体制を整えることで、為替や需要の変動、生産負荷の変化に応じて最適地での生産を行い、収益性の維持と投資効率の向上を図ってきました。
このクロスソースを実際に機能させるうえで重要だったのが、SVM管理です。各拠点の採算を共通の考え方で把握できるようになったことで、どの拠点で生産するのが最も合理的かを判断しやすくなり、為替や需要の変動に応じた生産配分の見直しを迅速に行えるようになりました。
フリー・キャッシュ・フロー(FCF)管理の導入
連結ベースではROEを重視していますが、子会社管理では業態や各国規制の違いによる資本水準の差もあり、ROEをそのまま共通指標とすることは適切ではありません。また需要変動の大きい建設機械・車両事業では売掛金や棚卸資産を含む資産効率の管理が重要です。そこで2017年度からはROIC(Return on Invested Capital:投下資本利益率)を導入し、収益性管理であるSVM管理を補完してきました。しかし比率指標であるROICは、事業部門が直接的に改善効果を感じにくいという課題もありました。
そのため2023年度からは、連結ROICの向上を目的に、グループ各社の管理指標としてFCFを導入しました。FCFを用いることで、各社は資産効率の良し悪しを比率ではなく金額ベースで把握でき、改善すべき論点をより具体的に認識できます。加えて、FCF創出の源泉を、①利益、②運転資本、③固定資産(減価償却費-投資額)、④M&Aの4つに分解しています。これにより、改善すべき要素と金額を明確にし、将来キャッシュフローの最大化につなげています(図11)。
グローバル・キャッシュ・マネジメント・システム(GCMS)の導入
当社は2007年度に、多通貨・多拠点を対象としたGCMSを導入しました。GCMSとは、世界各地のグループ会社の資金残高や入出金を一元的に把握し、グループ内の余剰資金と資金需要を調整することで、外部借入の抑制や資金効率の向上につなげる仕組みです。
当時、日本企業においてGCMSの導入は一般的ではなく、多くの企業は日本国内または地域単位での資金管理にとどまっていました。
こうした先進的な取り組みにより、グローバルでの資金の可視化と一元管理を進め、平時における資金効率の向上に加え、非常時においても迅速に流動性を確保できる体制を構築しています。
さらに、GCMSに各地域のCMSを組み合わせることで、地域をまたいだ資金管理の一体化を実現しています。買収した会社についてもこのCMSに組み込むことで、買収後の迅速な資金管理の統合と資金効率の向上につなげています。
国際税務面の対応強化
税務面では、1988年に設立したドレッサー社(アメリカ)との合弁会社における出資比率拡大(現在のコマツアメリカ株式会社)を契機に、海外現地法人との取引価格の算定方法について税務当局と事前に合意するAPA(Advance Pricing Arrangement:移転価格税制に基づく事前確認制度)の検討を開始しました。その後、1996年の日米APA第1次合意を皮切りに、オーストラリアやベルギーとも順次合意し、日本から海外現地法人への取引に係る売上高の約5割まで、APAの適用範囲を拡大しています。こうした取り組みは、移転価格税制を巡る不確実性を低減し、海外事業の安定運営と財務面での予見可能性の向上に寄与しています。
政策保有株の削減
政策保有株について、コマツは株価変動リスクの抑制と資産効率向上の観点から、2009年度よりいち早く見直しを進めてきました。その結果、2017年度末までに保有していた上場株式をすべて売却しました(図13)。こうした政策保有株式の削減は、資本効率を重視し、限られた経営資源を成長投資や株主還元へ優先的に配分するという、現在のキャッシュアロケーションの考え方にも通じるものです。
資金調達の多様化
コマツは、資金調達手段の多様化も進めてきました。その一環として、2020年7月の環境改善に資する投資を対象とした当社初のグリーンボンドの発行を皮切りに、2022年度には、サステナビリティに関する目標の達成状況に応じて金利が上昇する、日本企業初の外貨建てサステナビリティ・リンク・ボンドを発行しました。さらに2026年7月には、高い省エネルギー性能を備えたコマツ本社ビルの建て替えを資金使途とするグリーンボンドを発行しました(図14)。
こうした取り組みは、資金調達の多様化に加え、当社の取り組みに関心を持つ幅広い投資家との対話機会の拡大にもつながるものと考えています。
当社では従来から、営業キャッシュフローを、①設備投資(成長戦略)、②株主還元、③バランスシート改善(将来のM&Aへの備え)という3つの資金使途に配分してきました。
安定的な株主還元を継続するためには、将来の成長につながる投資を優先することが不可欠であると考えており、営業キャッシュフローの約50%を設備投資に充当するとともに、将来のM&Aにも備える方針です(図17)。
株主還元については、安定配当を基本としつつ、財務の健全性や株主資本比率などを総合的に勘案し、機動的に自己株式取得を実施してきました。実際に、2024年度より3年連続で各1,000億円の自己株式取得を行っています(図18)。こうした資本配分の基本的な考え方は、短期的な株主還元と中長期の成長投資、更に将来の不確実性への備えを同時に実現させるものです。
(1) 地政学・通商政策リスクへの対応
米国関税政策や中東情勢の緊迫化など、足元では当社を取り巻く事業環境の不確実性が一段と高まっています。当社では、こうした外部環境の変化が事業に及ぼす影響を過小評価せず、入手可能な情報に基づいて的確に見極めたうえで、その影響を業績見通しに適時反映し、外部に公表してきました。重要な点は、不確実性を早期に把握し、前提を明確にして見通しへ反映するとともに、ステークホルダーに対して透明性と一貫性のある説明を真摯に行うことだと考えています。加えて、商流の見直しや価格改善など、取り得る対策を着実に実行し、収益への影響抑制に努めています。
(2) 非財務インパクトの定量化
企業価値の向上には、財務情報に加え、事業活動が社会にどのような価値を生み出しているかを把握し、経営に活かすことが重要です。経理・財務部門においても、非財務領域の価値を定量的に捉える取り組みに挑戦しています。
その一環として、今回は中期経営計画の重点分野である林業機械事業に着目しました。森林機能の維持と木材資源の持続的な活用を両立する「循環型林業」の重要性が高まるなか、当社の林業機械事業は、林業工程の幅広い領域を機械化・効率化することで、その拡大を支えています。さらに、労働災害リスクの低減や人手不足といった社会課題の解決にも貢献しています。
前回取り組んだAHS(鉱山向け無人ダンプトラック運行システム)に引き続き、「インパクト会計*」を用いて一定の前提に基づき2024年度における機械化の効果を金額換算した結果、グローバル全体で約1兆2,700億円の社会インパクトを創出している可能性が示されました(図19)。
今後も財務と非財務をつなぐ取り組みを進化させ、経営判断やステークホルダーとの対話に活かすことで、持続的な企業価値向上につなげていきます。
* アビームコンサルティング株式会社との共同分析