新たな中期経営計画に基づき、価値創造への挑戦を続け企業価値の最大化を目指していきます
bauma2025(ドイツ)にて欧州コマツの社員、販売代理店関係者との集合写真(社長は中央)
先にも述べましたが、2024年度の1年間は、担当役員として中計策定に従事しました。新中計のテーマは、コマツの価値観の一つである「挑戦」から着想を得て、「Driving value with ambition 価値創造への挑戦」としました。この価値観はコマツの100周年に合わせて、新たにつくるというより、世界中のコマツグループ社員の声を聴きながら、これまで培ってきた企業文化を整理し言語化したものです。日本語の「挑戦」が、英語では「Challenge」でなく「Ambition」であるのは、「挑戦」の定義が「高い志を持ち、失敗を恐れることなく、革新のために挑戦し続ける」であるためです。不確実性の高い時代のなかでも、自ら変化を起こすために投資を行い、顧客価値を創造する意気込みとして「Ambition」をキーワードに選びました。
また、新中計を機に、コマツが描くありたい姿についても「安全で生産性の高いクリーンな現場を実現するソリューションパートナー」と再定義しました。これはお客さまの課題に寄り添い、モノとコトの両軸でソリューションを進化させ、お客さまと共に価値を創り続けるという、強い思いを込めています。そして、今回新たにダブルマテリアリティ*の観点で見直したマテリアリティなどを前提に、ありたい姿からのバックキャスティングとともに、リスクと機会を考慮したシナリオプランニングを行い、成長戦略の3本柱を設定しました。すなわち、「イノベーションによる価値共創」「成長性と収益性の追求」「経営基盤の革新」です。
*ダブルマテリアリティ:企業の財務的な影響と、社会や環境に与える影響の両方を考慮するマテリアリティの考え方
「イノベーションによる価値共創」では、カーボンニュートラルの流れを汲んだ電動化や、お客さまの現場の安全性・生産性向上に資するソリューションの開発を推進しています。今後生成AIの活用がさまざまな領域で重要になります。生成AI技術は、コマツも既にいろいろな取り組みを開始していますが、2024年には、チリを拠点とするデジタルソリューションプロバイダーであるOctodots Analytics社を買収しました。同社は、AIを用いて鉱山現場におけるさまざまな施工プロセスを解析し、リアルタイムで最適化する技術を持っています。私たちのグループで展開する鉱山向けフリート管理システムと連携し、施工プロセスの更なる効率化を目指していきます。外部の技術探索という点では、コマツは、30年ほど前からベンチャーキャピタルへの投資を通じて先進技術のサーチを行っています。今回の新中計期間においても、引き続き将来の成長を見据えた種まきをしっかりと実行していきます。
「成長性と収益性の追求」では、成長市場における個々の顧客ニーズや競争環境をしっかりと見極めながら、商品開発のスピードアップを進め、プレゼンスを拡大していきます。各地域の特徴や競争軸を敏感に捉え、きめ細かく対応するためにも、伝統市場・戦略市場とする従来の括りを撤廃しました。また、既に世界中で約81万台が稼働しているKomtraxの強みを活かし、データドリブンのビジネスモデルを通じたバリューチェーンビジネスも拡大し、新たな付加価値の創出につなげていきたいと考えています。改めてコマツの強みは何かと考えてみると、まずは「他社に先駆けたイノベーション」です。これまでコマツは、Komtrax(機械稼働管理システム)、AHS(Autonomous haulage system:鉱山向け無人ダンプトラック運行システム)、スマートコンストラクション®など、業界に先駆けてイノベーションを起こしてきました。これらのソリューションを通じて、お客さまの現場の課題解決に貢献してきたという自負があります。お客さまの現場における最適な施工管理やフリート管理の実現に貢献するソリューション(コト)と、それと親和性の高い高度化した機械(モノ)をフルパッケージで提供できる点はコマツの強みであり、この両軸の取り組みはお客さまにも浸透しつつあります。引き続き注力していくことでお客さまの現場の変革をパートナーとして支えることができると信じています。
もう一つの強みは品質管理を基盤にした「ものづくり」の進化です。1964年のデミング賞受賞以来の強固な品質管理の伝統を維持・発展させるなかで、サプライチェーン全体での改善を進め、「環境変動に強いグローバルな生産体制」を目指しています。コマツは開発と生産が一体となったマザー工場制を採用しており、開発時に生産効率まで織り込むサイマル開発や同一製品を生産する海外工場のQDC(品質・納期・コスト)改善をサポートすることで、全世界で同一品質のものづくりができる仕組みを構築しています。例えば、20 トンクラスの油圧ショベルは、世界9工場で生産しており、需要や為替の変動などに応じて、最適な製品の相互供給体制(クロスソース)を構築しています。また、さまざまな外部環境リスクへの対応力を上げ、サプライチェーンの安定化を図るため、複数地域のサプライヤーからの部品調達体制(マルチソース)の構築にも取り組んでいます。今後は先述のERP刷新により、サプライチェーンのデータを一気通貫でつなげ、刻一刻と変化する外部環境への対応力に磨きをかけ、お客さまにベストな商品・サービス・ソリューションを提供していきます。
そして、コマツにとっての最大の強みは「人」です。コマツではグループ社員66,697人(2025年3月末現在)のうち約7割が日本以外で働いています。これらの多様なバックグラウンドを持つ人材が「コマツウェイ」という共通の価値観を持ち、実践していることが価値創造の源泉となっています。このコマツウェイは、全世界の社員が共有すべき価値観、心構え、行動様式を2006年に明文化したもので、従来より社長交代のタイミングで改訂を行っており、2025年1月には4回目の改訂を行いました。人材育成の土台にもコマツウェイを据えており、次世代へと継承され続けています。社員一人ひとりの成長を育み、活躍できる環境を整え、最終的にコマツグループとしての成長につなげられるよう、挑戦できる企業風土を醸成していきたいと考えています。
大阪工場で実施した社員ミーティングの様子
コマツは現在、売上高は4兆円を超え、建設機械・車両事業の売上げの9割が海外、社員も約7割が日本以外で働くなど、グローバルオペレーションが更に進んでいます。グローバル企業としてのレベルを更に上げていくため、これまでの機能・地域の2軸のマトリックス経営から、鉱山機械、一般建機、林業機械、産業機械他といった事業の軸を加えた3軸経営にシフトすることで、きめ細かい重点活動に取り組み、意思決定のスピードを上げて、今後の成長に向けて取り組んでいきます。
会社の情報開示と株主・投資家の皆さまとのコミュニケーションについてはこれまでも精一杯取り組んできましたし、期待に応えられてきたと自負していますが、今後も更に改善・レベルアップできるよう努めてまいります。
業界トップレベルの成長性と収益性を引き続き経営目標とし、非常に厳しい経営環境においても、逆風に負けずにイノベーションに取り組むDNAのもと、Ambition―挑戦スピリットを持って価値創造に取り組むコマツの挑戦に、ぜひご理解とご支援をいただければと思います。