社長メッセージ

新たな中期経営計画に基づき、価値創造への挑戦を続け企業価値の最大化を目指していきます



ステークホルダーからの信頼度を高め、企業価値を最大化することが自身の使命
2025年4月1日に代表取締役社長(兼)CEOに就任いたしました今吉也です。近年、社会の変化はますます激しく、先行きの不透明感が更に強まっています。そのような時代の転換期での社長就任となりましたが、変化に委縮するのではなく、新たな価値創造のために、むしろコマツ自らが変化を起こしていくことが重要であると考えています。今後も、2021年の創立100周年を機に定めた存在意義、価値観、そしてブランドプロミス Creating value together に基づき、引き続き、「品質と信頼性」を追求し、企業価値である「我々を取り巻く社会とすべてのステークホルダーからの信頼度の総和」を最大化することを「経営の基本」としていきます。
私は、粟津工場でキャリアをスタートしてからこれまで、経理財務・経営管理の業務を長く経験してきました。その間、アメリカと中国に計12年間駐在し、直近の中国の駐在では、中国総代表として急激に変化する市場環境のなかで、構造改革を推進してきました。本社勤務の時代には、IRマネージャーとして、投資家をはじめとしたステークホルダーの皆さまと直接コミュニケーションを取る機会が多くありました。また過去3回、中期経営計画(以下、中計)の策定に携わりましたが、特に昨年度の1年間は、担当役員として中計策定の指揮を執り、中長期的な視点でコマツがどうあるべきかを常に考えてきました。今年度は社長として計画を実行に移す年であり、身の引き締まる思いです。新中計においても、社会課題の解決と収益向上の好循環で持続的な会社の成長を目指す、という従来の方針からぶれることなく、経営の舵取りを行っていきます。
今後も、すべてのステークホルダーの皆さまから更に信頼される会社となるために、適切な情報開示と対話を行っていくことが非常に重要と考えています。
成長市場でのプレゼンス向上を図り、技術革新で社会課題の解決に貢献する
建設・鉱山機械市場は、需要変動を周期的に繰り返す特性があります。中長期的に見れば、新興国を中心とした人口増加や先進国でのインフラ更新などを追い風に、建設・鉱山機械事業は成長産業といえますが、短期的には景気変動に加えて、昨今は保護主義や地政学リスクによる不確実性が特に高い状況です。
建設・鉱山機械の地域別の長期の需要予測では、インド、アフリカ、アジア、中近東は人口増加を背景に比較的大きく成長すると見られますが、北米についても同様に、今後の成長は比較的大きいと見られています。コマツの戦略としては、地域で異なるお客さまの動向や競合環境などの競争軸を見極めながら、プレゼンス向上に向けた代理店の強化、商品開発を積極的に行っていく必要があると考えています。
また、デジタル技術の進展に伴う、建機の自動化・遠隔操作化についても競争が激しくなっています。自動車と同じように建機にもSDV(Software defined vehicle)の波が来ると予想され、自動化・遠隔操作化も含めた機械の高度化・ソリューション提供での競争が一層激しくなってくることでしょう。そうした変化に先駆け、2024年12月に、コマツとして初めてのSDVであるICT油圧ショベル「PC200i-12」を日本市場向けにリリースしました。これは3Dマシンガイダンスを標準搭載し、3Dマシンコントロールを課金制で選択できるほか、施工管理ソリューションであるスマートコンストラクション®の一部機能も搭載し、お客さまのICT施工導入ニーズに対してより柔軟に対応できる機械です。2025年8月以降、欧州、北米、豪州など海外市場向けにも順次リリースを続けています。
長期的な動向として、カーボンニュートラル対応も引き続き大きな開発の課題です。私たちのカーボンニュートラルへの取り組みは、気候変動という大きな社会課題解決に対する基本姿勢です。コマツは、建設・鉱山機械のフルラインメーカーとして、さまざまな環境で使用されることを想定し、電動化、燃料電池、水素活用などの多様な動力源の開発や、既存の内燃機関を活かしたカーボンニュートラル燃料への対応など、全方位での開発に取り組んでいます。今後も技術動向や各国の環境規制、更には一般建機と鉱山機械で異なるお客さまの環境対応ニーズを注視しながら、取り組みを進めていきます。
これらの業界を取り巻く潮流に対して、コマツはソリューション提供やそれとつながる高度な機能を搭載した製品開発を以て差別化を図り、コマツならではの価値創造に挑戦していきたいと考えています。


bauma2025(ドイツ)にて欧州コマツの社員、販売代理店関係者との集合写真(社長は中央)


新中期経営計画のキーフレーズ“Ambition”に込めた想い

先にも述べましたが、2024年度の1年間は、担当役員として中計策定に従事しました。新中計のテーマは、コマツの価値観の一つである「挑戦」から着想を得て、「Driving value with ambition  価値創造への挑戦」としました。この価値観はコマツの100周年に合わせて、新たにつくるというより、世界中のコマツグループ社員の声を聴きながら、これまで培ってきた企業文化を整理し言語化したものです。日本語の「挑戦」が、英語では「Challenge」でなく「Ambition」であるのは、「挑戦」の定義が「高い志を持ち、失敗を恐れることなく、革新のために挑戦し続ける」であるためです。不確実性の高い時代のなかでも、自ら変化を起こすために投資を行い、顧客価値を創造する意気込みとして「Ambition」をキーワードに選びました。
また、新中計を機に、コマツが描くありたい姿についても「安全で生産性の高いクリーンな現場を実現するソリューションパートナー」と再定義しました。これはお客さまの課題に寄り添い、モノとコトの両軸でソリューションを進化させ、お客さまと共に価値を創り続けるという、強い思いを込めています。そして、今回新たにダブルマテリアリティ*の観点で見直したマテリアリティなどを前提に、ありたい姿からのバックキャスティングとともに、リスクと機会を考慮したシナリオプランニングを行い、成長戦略の3本柱を設定しました。すなわち、「イノベーションによる価値共創」「成長性と収益性の追求」「経営基盤の革新」です。

*ダブルマテリアリティ:企業の財務的な影響と、社会や環境に与える影響の両方を考慮するマテリアリティの考え方

 

「イノベーションによる価値共創」では、カーボンニュートラルの流れを汲んだ電動化や、お客さまの現場の安全性・生産性向上に資するソリューションの開発を推進しています。今後生成AIの活用がさまざまな領域で重要になります。生成AI技術は、コマツも既にいろいろな取り組みを開始していますが、2024年には、チリを拠点とするデジタルソリューションプロバイダーであるOctodots Analytics社を買収しました。同社は、AIを用いて鉱山現場におけるさまざまな施工プロセスを解析し、リアルタイムで最適化する技術を持っています。私たちのグループで展開する鉱山向けフリート管理システムと連携し、施工プロセスの更なる効率化を目指していきます。外部の技術探索という点では、コマツは、30年ほど前からベンチャーキャピタルへの投資を通じて先進技術のサーチを行っています。今回の新中計期間においても、引き続き将来の成長を見据えた種まきをしっかりと実行していきます。

「成長性と収益性の追求」では、成長市場における個々の顧客ニーズや競争環境をしっかりと見極めながら、商品開発のスピードアップを進め、プレゼンスを拡大していきます。各地域の特徴や競争軸を敏感に捉え、きめ細かく対応するためにも、伝統市場・戦略市場とする従来の括りを撤廃しました。また、既に世界中で約81万台が稼働しているKomtraxの強みを活かし、データドリブンのビジネスモデルを通じたバリューチェーンビジネスも拡大し、新たな付加価値の創出につなげていきたいと考えています。
「経営基盤の革新」では、事業成長を支える人材の獲得・活躍の推進に取り組んでいきます。歴史あるF1チーム「アトラシアン・ウィリアムズ・レーシング」とのパートナーシップによる認知度向上を図るほか、サクセッションプランに基づき、次世代リーダーの計画的な育成をグローバルに推進しています。また、ERP(Enterprise resource planning:統合基幹業務システム)の刷新により、商流における各データの見える化を行い、グローバルベースでの迅速・有効な意思決定につなげていきます。
経営目標においては、財務と非財務でそれぞれ目標を設けました。財務目標では、「成長性:業界水準を超える成長率」と「収益性:業界トップレベルの利益率」を設定し、前中計に引き続き定性目標を採用しました。定量目標も検討しましたが、過去の経験から、業界特有のボラティリティが非常に高いことから、目標としてはふさわしくないのではないかという議論の結果です。一方で、環境変化への対応の成果として、競合に対するコマツの目指すべき立ち位置を明確に表現するため、業界水準を超える成長性、業界トップレベルの収益性という項目を継続する判断をしました。
また今回、フリー・キャッシュ・フローの目標を新たに設けました。投資家とのコミュニケーションのなかで株主還元やキャッシュフロー改善への要望を多くいただいており、その期待に応えるためにも3年間で1兆円(M&A関連の支出は除く)という目標を設けました。また前中計からの変更点として、リテールファイナンス事業のネットD/Eレシオは、従来5倍以下という目標を設定していましたが、やや保守的という意見もあり、リスクコントロールを行いながら事業が拡大できている状況に鑑み、6倍以下に変更しています。
非財務目標では、社会課題解決に貢献する中計の重点活動を定め、マテリアリティの観点から特に重要な30項目についてはKPIを設定しました。引き続き、事業活動を通じた社会課題の解決を目指していきます。
今回の中計策定にあたり、社内でのグローバルなディスカッションはもちろんのこと、取締役会やIAB(International advisory board)にも諮り、個別テーマや中計全体の整合性、公表のあり方などについて、発表直前まで相当回数の議論を行いました。ますます取締役会の関与を深めていると感じています。
社員一人ひとりの成長を育み、グループとしての成長につなげる

改めてコマツの強みは何かと考えてみると、まずは「他社に先駆けたイノベーション」です。これまでコマツは、Komtrax(機械稼働管理システム)、AHS(Autonomous haulage system:鉱山向け無人ダンプトラック運行システム)、スマートコンストラクション®など、業界に先駆けてイノベーションを起こしてきました。これらのソリューションを通じて、お客さまの現場の課題解決に貢献してきたという自負があります。お客さまの現場における最適な施工管理やフリート管理の実現に貢献するソリューション(コト)と、それと親和性の高い高度化した機械(モノ)をフルパッケージで提供できる点はコマツの強みであり、この両軸の取り組みはお客さまにも浸透しつつあります。引き続き注力していくことでお客さまの現場の変革をパートナーとして支えることができると信じています。
もう一つの強みは品質管理を基盤にした「ものづくり」の進化です。1964年のデミング賞受賞以来の強固な品質管理の伝統を維持・発展させるなかで、サプライチェーン全体での改善を進め、「環境変動に強いグローバルな生産体制」を目指しています。コマツは開発と生産が一体となったマザー工場制を採用しており、開発時に生産効率まで織り込むサイマル開発や同一製品を生産する海外工場のQDC(品質・納期・コスト)改善をサポートすることで、全世界で同一品質のものづくりができる仕組みを構築しています。例えば、20 トンクラスの油圧ショベルは、世界9工場で生産しており、需要や為替の変動などに応じて、最適な製品の相互供給体制(クロスソース)を構築しています。また、さまざまな外部環境リスクへの対応力を上げ、サプライチェーンの安定化を図るため、複数地域のサプライヤーからの部品調達体制(マルチソース)の構築にも取り組んでいます。今後は先述のERP刷新により、サプライチェーンのデータを一気通貫でつなげ、刻一刻と変化する外部環境への対応力に磨きをかけ、お客さまにベストな商品・サービス・ソリューションを提供していきます。
そして、コマツにとっての最大の強みは「人」です。コマツではグループ社員66,697人(2025年3月末現在)のうち約7割が日本以外で働いています。これらの多様なバックグラウンドを持つ人材が「コマツウェイ」という共通の価値観を持ち、実践していることが価値創造の源泉となっています。このコマツウェイは、全世界の社員が共有すべき価値観、心構え、行動様式を2006年に明文化したもので、従来より社長交代のタイミングで改訂を行っており、2025年1月には4回目の改訂を行いました。人材育成の土台にもコマツウェイを据えており、次世代へと継承され続けています。社員一人ひとりの成長を育み、活躍できる環境を整え、最終的にコマツグループとしての成長につなげられるよう、挑戦できる企業風土を醸成していきたいと考えています。


大阪工場で実施した社員ミーティングの様子


ステークホルダーへのメッセージ

コマツは現在、売上高は4兆円を超え、建設機械・車両事業の売上げの9割が海外、社員も約7割が日本以外で働くなど、グローバルオペレーションが更に進んでいます。グローバル企業としてのレベルを更に上げていくため、これまでの機能・地域の2軸のマトリックス経営から、鉱山機械、一般建機、林業機械、産業機械他といった事業の軸を加えた3軸経営にシフトすることで、きめ細かい重点活動に取り組み、意思決定のスピードを上げて、今後の成長に向けて取り組んでいきます。

会社の情報開示と株主・投資家の皆さまとのコミュニケーションについてはこれまでも精一杯取り組んできましたし、期待に応えられてきたと自負していますが、今後も更に改善・レベルアップできるよう努めてまいります。

業界トップレベルの成長性と収益性を引き続き経営目標とし、非常に厳しい経営環境においても、逆風に負けずにイノベーションに取り組むDNAのもと、Ambition―挑戦スピリットを持って価値創造に取り組むコマツの挑戦に、ぜひご理解とご支援をいただければと思います。